その4 先行技術調査のかんどころ

検索式立案プロセスを学んだ後には、できるだけ数多くの案件に取り組み、学んだ手法を自分のものにしていく必要がありますが、同時に、それぞれの案件に取り組むことで得られた新たな知見を蓄積していくことも重要です。

特に、「こんなことをすると調査モレが起こる」とか、「こうすると調査モレを防げる」とか、「こんな工夫をすれば効率的に欲しい特許を検索できる」といったノウハウを多く知ることで、特許調査の精度をさらに高めることができます。

この講座では、検索実務や検索事例研究活動により得られたいろいろなノウハウについて解説するとともに、効果的な学びの機会となる検索事例研究の活動の進め方を紹介します。

 

3.先行技術調査のかんどころ

先行技術調査は、特許出願する発明のアイデアが、既に公知となっていないかを確認するための調査になります。具体的には、特許出願する時点で既に発行されている特許や実用新案の公報に特許出願する発明アイデアが記載されていないかをチェックします。発明アイデアと同一、もしくは、類似する内容が記載されている部分は、発明の名称、要約、特許請求の範囲といった発明の主要部に限らず、公報全文のどこかの部分に記載されていれば公知文献になるので、公報全文を対象とした検索アプローチが必要になります。

(1)全文検索とFターム検索の活用を心がける

先行技術調査では全文を対象とするアプローチが必要なのですが、キーワード検索の検索対象を公報全文にすると、ヒット件数が膨大になるばかりか、ノイズも増えてしまいます。そのため、「近接演算」のテクニックを活用することで、ノイズを増やすことなく、必要なものだけをヒットさせることが可能になります。

また、特許分類指定検索を行う場合には、FIやIPCを使った検索式とともに、Fタームを使った検索アプローチを加えることをお勧めします。

図10 Fタームの付与対象について

図10に示したように、FIやIPCは発明のポイントの内容に応じた分類が付与されています。言い換えれば、公報の【特許請求の範囲】の発明主題の技術内容に対応する分類コードが付与されています。それに対してFタームは、テーマによっては発明の要部を対象に付与されるテーマもありますが、基本的には【特許請求の範囲】に限らず、【発明の詳細な説明】に記載されている実施例の内容に対応する分類コードが付与されています。

したがって、複数の技術観点(目的、用途、構造、材料、製法など)のそれぞれについて、細かく展開されたFタームを組合せて検索することで、公報全文に記載された実施例を対象に公知文献を調査することができます。

(2)実施例を狙った検索式を立案する

特許出願しようとする発明アイデアの請求項(案)が提示された場合には、その請求項(案)の内容が新しいものである(新規性を有する)か否かを確認しようとするので、検索に用いるキーワードも請求項(案)に記載されたキーワードを中心に類義語展開して検索を実施すると思います。
先行技術調査の場合には、さらに、請求項(案)を具体的に実現する実施例を見据えた検索アプローチを実施することをお勧めします。

図11の立ち上がり補助椅子の事例で具体的に説明します。

図11 実施例を狙った検索式の事例

今回開発された立ち上がり補助椅子の特徴は、立ち上がり補助を行うための「昇降機構」を設けた点であることから、上記の【請求項1】のような請求項(案)が提示されました。【請求項1】の記載に着目すると、「昇降」「上昇and下降」「起立補助」といった類義語キーワードを展開してキーワード検索を実施すると思いますが、この検索では「進歩性欠如として提示された引用例②」の公報はヒットしません。この引用例②をヒットさせるためには、「昇降機構」の「具体的な構造」に基づくキーワードを指定した検索アプローチも追加する必要があります。

具体的には、「X字状リンク機構にバネを組合せた」ことを表すキーワードを用いて検索式案を立案するとヒットさせることができます。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その5 クリアランス調査のかんどころ」について解説していきます。

以上