その5 新用途・新分野模索型の研究開発テーマ探索
特許調査の結果を、見やすく、分かりやすく、一目で把握しやすくするツールとしてパテントマップがあります。特許調査により抽出された関連特許群の全体像を把握するとともに、個々の特許の中身を示して「見える化」するために、パテントマップを作成し、さらに、作成したパテントマップを活用して、知財活動や研究開発活動に生かしていくことは事業の発展に役立ちます。
この講座では、抽出した特許のポイントを要約するとともに、技術分類を設定しながら層別体系化した関連特許一覧表の作成から始まり、全体像を把握するための技術系統分布図や、技術のトレンドを把握するための時系列流れ図の作成するプロセスについて解説します。さらに、パテントマップを活用して開発テーマを模索したり、特許ポートフォリオ(特許網)を構築する事例についても紹介します。
5.新用途・新分野模索型の研究開発テーマ探索
新製品や次世代改良製品を検討する際に、ライバル製品に対して競争力があり、何よりも、消費者にとって魅力的な製品コンセプトを創出し、採択することに苦労されているという話をよく耳にします。そこで、特許情報を活用して開発テーマを創出し、採択した事例を紹介します。特許情報は、あらゆる技術分野の技術情報が引き出しやすいように整理収録されています。また、各特許出願には従来技術が有する問題点や技術課題が記載されていますので、技術課題、すなわち、世の中のニーズに関する情報の宝庫であるといえます。
特許情報を活用した開発テーマ創出のアプローチ方法として、2つのパターンがあります一つは「新用途・新分野模索型」で、もう一つが「課題・ニーズ模索型」です
「新用途・新分野模索型」のテーマ探索は、自社が保有する技術の特徴を活かすことができる、別の用途や、新しい分野に関する特許情報を収集し、収集した情報をトリガーにして、新たな製品コンセプトのアイデアを付加するというものです。
図10には、「無毒の洗浄剤」に関する新用途、新分野を模索した事例を紹介しています。
環境にやさしいカーシャンプーを開発した化学薬品メーカーでは、そのカーシャンプーの特徴である「無毒」という特徴を生かせる自動車分野以外の新たな洗浄剤の市場はどこにあるのかを洗いざらい抽出し、次なる新規洗浄剤の開発テーマを模索することにしました。
「洗浄剤 and 無毒」という検索条件で特許調査を行うと、農業機械、化粧品、医療機器、食品機械など、自動車分野以外の分野とその用途に関する情報が得られます。これらの特許情報により得られた分野と用途の情報をトリガーとしてブレインストーミングを実施し、更なる新分野、新用途に関するアイデアを創出します。例えば、「食品製造後の装置の洗浄」という既知アイデアに触発されて、「食品梱包時の搬送パレットの洗浄再利用に使える」といった新たなアイデアが創出されるのです。
アイデアが洗いざらい出された後には、出された新規洗浄剤の開発テーマのアイデアを評価する必要があります。図11には、ポートフォリオマトリックス法によるアイデア選択事例を紹介しています。
横軸には、各開発テーマ候補が現在参入している自動車用品の市場から近いのか遠いのかをプロットし、縦軸には、その開発テーマが自社の現在の技術開発能力に比べてハードルが高いのか低いのかをプロットしています。そしてバブルの大きさは市場規模を表しています。
4分割された左下の「増強型」の領域にプロットされたテーマについては、市場も近く、技術の難易度も低いので、自社内の現有スタッフのみで対応できそうなテーマでありますが、増強型の対極にある「飛石型」の領域にプロットされた化粧品分野のテーマについては、市場も遠く、技術的な難易度が高い開発テーマとなるので、研究開発投資にあたり、大変リスクが高いテーマとなり、よほどの勝算がない限りお勧めできません。そういった中で、「待機型」と「偵察型」の領域にプロットされ、市場規模も大きい開発テーマは、新規市場開拓や、新技術開発への挑戦に関するリスクも少なくなることから、5年後、10年後を見据えた中長期の研究開発テーマとして適するでしょう。この事例においては、次に取り組むべき開発テーマとして「農芸用機械分野の収穫野菜洗浄液」の開発に着手することにしました。
今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その6 新課題・ニーズ模索型の研究開発テーマ探索」を解説していきます。
以上