その6 無効資料調査のかんどころ

検索式立案プロセスを学んだ後には、できるだけ数多くの案件に取り組み、学んだ手法を自分のものにしていく必要がありますが、同時に、それぞれの案件に取り組むことで得られた新たな知見を蓄積していくことも重要です。

特に、「こんなことをすると調査モレが起こる」とか、「こうすると調査モレを防げる」とか、「こんな工夫をすれば効率的に欲しい特許を検索できる」といったノウハウを多く知ることで、特許調査の精度をさらに高めることができます。

この講座では、検索実務や検索事例研究活動により得られたいろいろなノウハウについて解説するとともに、効果的な学びの機会となる検索事例研究の活動の進め方を紹介します。

5.無効資料調査のかんどころ

次に説明する特許調査の種類は、無効資料調査を実施する場合のかんどころです。
無効資料調査では、無効化したい特許の【特許請求の範囲】に記載された内容が、その出願日(もしくは優先日)以前に公知になっている資料を探します。そのため、検索式を立案する際には、検索対象の出願日を無効化したい特許の出願日以前の日付に限定します。

(1)審査経過書類を確認する

無効資料調査を実施する際には、まず、無効化対象の特許を正確に把握することから始めます。具体的には、無効化対象特許の審査の経過を確認し、出願時から権利化されるまで、どのような経過で審査が進んだのかということと、【特許請求の範囲】の内容がどのように補正されて登録に至ったのかを把握します。

まず確認したいのが、審査経過書類の中の、「拒絶理由通知」と「意見書」「補正書」の内容です。拒絶理由通知の中で提示された引用文献に対して、どこをどのように補正し、意見書の中で、どのような違いを主張しているのかを確認するのです。具体的な事例を図14に示しました

図14 拒絶理由と反論の内容

無効化対象特許の拒絶理由通知書を確認すると、特許庁の審査官から、3件の引用文献が提示されるとともに、進歩性が無いとする理由がコメントされています。出願人はそれに対して、引用文献には記載されていない、新たな構成を請求項に加える補正を行うとともに、意見書の中で反論しました。そして、その反論が認められて、追加補正された【請求項】の内容で権利化が図られたことがわかりました。

そうすると、補正前の内容は引用文献に記載された内容で公知になっているので、追加補正された反論のポイントが記載された公知資料を中心に検索戦略を立案すれば良いということになるのです。

また、拒絶理由通知書の中で提示されている引用文献は、予備検索で把握された適合公報として活用することもできるので、無効化対象特許の引用文献を確認することは必須な作業でもあります。

さらに、審査経過を確認していると「検索報告書」が提出されているケースも多く見られます。「検索報告書」は、審査の過程で新規性調査を外部の登録調査機関に外注されたのに対し、登録調査機関から調査結果が報告された書類です。「検索報告書」は、まさに、特許調査結果の報告書ですので、調査した内容と、その結果、抽出された公報が記載されています。図15には、検索報告書の中で報告されている検索式を示しました。

 

図15 検索報告書に記載された検索式

検索報告書の検索論理式で採用されている特許分類や、キーワードと類義語展開の内容は、これから実施する無効資料調査の検索にも活用できる参考情報になると思います。また、検索報告書で既に実施された調査範囲を外して、新たな検索式を立案することを検討しても良いかと思います。

(2)クレーム対比表について

無効資料調査の調査結果を報告書にまとめる際に作成するのが「クレーム対比表」です。無効化したい特許の請求項の内容が、どの抽出公報の、どの部分に記載されているのかを、対比表形式でわかりやすくまとめたものです。図16にはスコップの事例のクレーム対比表を示しました。

 

図16 スコップのクレーム対比表

このクレーム対比表を見れば、【請求項1】の全ての構成要件は抽出公報①に記載されていることが一目でわかります。さらに、従属請求項である【請求項5】の構成要件は全て抽出公報②に記載されていることもわかります。そうしたことから、【請求項1】の新規性は抽出公報①により否定され、【請求項5】については、抽出公報①と②の組み合わせにより進歩性が否定されるというように、無効化に向けての論理構成の検討に役立ちます。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その7 特許検索事例研究のススメ」について解説していきます。

以上