その1 特許調査の種類と網羅性について

モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。
特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。

この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。

1.特許調査の種類と網羅性について

「特許調査」という業務を考えるときに、「漁業」に例えると理解がしやすいと思います。図1では、特許調査に関わる色々なものを漁業に例えて説明しています。

図1 特許調査を漁業に例えると

図1 特許調査を漁業に例えると

まず、特許、実用新案、意匠、商標、著作権といった知財に関連する情報の大海原を泳いでいる「魚」が特許公報に相当するとします。そうすると、その魚を捕獲するために、大海原を航行する「漁船」が検索システムに該当します。無料で乗船できる「J-PlatPat」をはじめ、各データベースベンダーより提供されている高性能の漁船も存在しています。実際に魚を捕獲する道具として「釣り竿や釣り針」と「漁網」がありますが、調査の目的に応じて、一本釣りする漁法か、一網打尽にする漁法かが選択されます。「釣り竿や釣り針」と「漁網」は検索式に相当し、「漁法」は検索技術に相当します。

「漁船=検索システム」はコンピューターの性能アップに伴い、どんどんと高性能化していきます。「漁法=検索技術」についても、概念検索やAI検索などの新しい検索技術がITの発展とともに生み出されています。欲しい「魚=特許公報」だけを正確に、また、迅速に捕獲するためには、優れた道具と優れたテクニックを使いこなす特許調査スキルが必要となります。

(1)情報検索の考え方

ここで、情報検索の網掛けについても整理しておきたいと思います。図2には、欲しい集合に対する検索集合との関係を示しています。

図2 情報検索の考え方

欲しい集合のうち、検索集合に該当したものを「適合情報」といいます。逆に、欲しい集合の中で、検索集合に含まれなかったものを「モレ(検索漏れ)」といい、検索集合に含まれているが、欲しい集合に含まれないものを「ノイズ(余分なもの、不要なもの)」といいます。

情報検索の世界では一般的に、「モレ」と「ノイズ」とはトレードオフの関係にあり、「モレ」を少なくしようとすると「ノイズ」が増えてしまい、「ノイズ」を少なくしようとすると「モレ」が増えてしまう傾向になります。また、モレの少なさの程度を示す指標として「再現率」があり、ノイズの少なさを示す指標として「適合率」という指標があり、特許調査の種類や目的に応じてこれらの指標のどちらを重視するのかが検討されます。

(2)特許調査の種類

一言で「特許調査」といっても、特許調査の目的に応じて、いくつかの種類に分けることができます。図3には特許調査の種類と網羅性の考え方を示しました。

図3 特許調査の種類と網羅性の考え方

それでは、それぞれの特許調査の概要について1つずつ上から順番に説明します。

■技術テーマ調査

業界の技術トレンドや競合他社の動向など、業界における知財動向を把握することを目的とする調査です。そのため、技術動向調査ともいわれます。

特定の製品や技術分野に関連する特許公報を幅広く拾い上げ、一覧表を作成します。抽出した特許公報に独自の技術分類を付与すれば、技術トレンドの把握に役立つとともに、後々まで活用できる利便性の高いデータになります。

 

■パテントクリアランス調査

パテントクリアランス調査は、権利調査、侵害特許調査ともいわれます。最近ではFTO(Freedom to Operate)調査といわれることが多くなってきました。事業を展開する際に特許的な安全性を確認し、安全な領域を確保することを目的とする調査です。

自社の事業を推し進める際に障害になると思われる、他社が保有する特許を、慎重に、そして、調査モレがないように調査します。

 

■先行技術調査

先行技術調査は先願調査と呼ばれることもありますし、出願前のアイデアについて調査する際には出願前先行技術調査といわれることもあります。

研究開発の成果として発明が生まれ、その発明が特許出願されるわけですが、特許出願される発明のアイデアが、すでに公知になっている場合、特許出願費用や審査請求費用が無駄になってしまいます。そのため、すでに公知となっている先行技術を把握するために実施するのが先行技術調査です。

 

■公知資料調査、無効資料調査

パテントクリアランス調査の実施により明らかになった、事業を進めるうえで障害となる登録特許や、今後権利化されると問題となる公開特許に対して、その特許性を否定したり、権利化を阻止したりするための文献を探すことを目的とする調査です。

問題となる特許の特許請求の範囲に記載された構成が記載され、その問題特許の出願日より前に公知となっている文献を見つけ出します。

 

■SDI調査

SDIとは「Selective Dissemination of Information=特定領域情報の継続的な配信」の頭文字からきています。公開特許公報と登録特許公報は毎週インターネットを介して発行されています。今日、特許調査が完了しても、来週になると新たに関連する特許公報が出てくる可能性があります。そのため、新たに発行される関連特許を継続的に監視し続けることが必要になることから、ウオッチング調査と呼ばれることもあります。

モノづくり企業が企業活動を行う中で、自社製品に関連する特許や、現在取り組み中の研究開発テーマに関連する特許を継続的にチェックする必要があります。

 

(3)網羅性についての考え方

図3の右側には、各種特許調査において、網羅性を高めるべきなのか、特定性を高めるべきなのかの指標を示しました。

網羅性を高めるべき傾向が強い「パテントクリアランス調査」においては、自社の事業を推し進める際に障害になると思われる、他社が保有する特許を、慎重に、そして、調査モレがないように、広めに検索範囲を設定して実施する必要があります。

一方で、特定性を高めるべき傾向化強い「先行技術調査」においては、調査対象となる発明について記載された先行技術のみを、ピンポイントで引っ張り出すことができればよいことになります。

 

そして、これらの各種特許調査を実施する調査対象は、国内特許であったり、外国特許であったりします。また、無効資料調査や公知資料調査では、特許以外の技術文献や論文情報を対象に調査を実施することもあります。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その2 特許調査の実施プロセス(調査主題の把握とポイントの抽出)」について解説していきます。