その3 予備検索(プレサーチ)

モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。

特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。

この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。

 

3.予備検索(プレサーチ)

特許調査のポイントが定まったら直ぐに本格的に検索を始めるのではなく、あたりを見るための事前調査となる「予備検索(プレサーチ)」を実施します。予備検索で得られた情報を調査の糸口として、本検索で実施する検索式を策定することになります。

具体的には、予備検索で把握した特許公報に付与されている特許分類や、説明文の中で使われているキーワードを参考にして、検索式を策定します。図7に示したとおり、予備検索で見つけた特許1,2,3,4の特許群を包含するように検索式1を策定することになるので、適合公報がたくさんある方が、正確な検索式1を策定することができます。しかし、今は予備検索の段階であり、あくまでも事前準備という位置づけになるので、多くの時間をかけられないのも事実です。

図7 検索式策定の考え方

 

それでは、短時間のうちに適合公報を把握するためのいくつかのアプローチをご紹介します。

【アプローチ①】

「特許公報の主要部」を対象にキーワード検索を実施して適合公報を探す。

特許公報の主要部とは、「発明の名称」「要約」「特許請求の範囲」の部分のことをいいます。キーワードの検索対象に公報全文を含めると、モレのリスクは少なくなりますが、ヒット件数は多くなり、中身をチェックするのに多くの時間を要します。予備検索においては、モレよりも短時間に適合情報を一本釣りすることを重視しますので、特許公報の主要部だけを対象にして予備検索します。

■検索例

発明の名称=ダブルクリップ
公報の主要部=ダブルクリップ*レバー*操作
公報の主要部=ダブルクリップ*レバー AND 全文=操作*(軽い+低減)

 

【アプローチ②】

適合性が高い特許分類を見つけたら、その分類コードを使ってみる。

アプローチ①で得られた適合公報に付与されている特許分類を確認すると、以下のダブルクリップに関連するFIとFタームを把握することができました。

FI)B42F1/02B ダブルクリップ、山形クリップ
Fターム)2C017BA01 ・ダブルクリップ、山型クリップ
Fターム)2C017BA02 ・・回動する取手付
Fターム)2C017DA01 ・材質は金属

特許分類を使った検索は網羅性が高く、ノイズが少ない結果が得られるので、これらの特定性が高い特許分類を使って予備検索します。特に、特許分類どうしの掛け合わせにより絞り込まれた検索回答集合には適合情報が濃密に含まれています。

■検索例

Fターム=2C017BA02 AND 公報の主要部=操作
Fターム=2C017BA02*2C017DA01

 

【アプローチ③】

IT技術の進化の恩恵としての「概念検索」や「AI検索」を活用する。

概念検索は検索したい対象を文章で指定する検索手法であり、指定された文章との類似度が高いと判断された順にリストアップされ、検索結果をランキング表示します。そこで、概念検索を実施して、上位にランクされた公報のみをチェックすれば時間の節約につながります。

■検索例

入力した文章→「ダブルクリップ(バインダークリップ)において、レバーの長さ、形状、または、支点の位置に工夫をして開閉操作に要する力を低減する。」

■某概念検索システムで得られたトップテンをチェックした結果

1位:特開2019-018551(同一抽出公報) 6位:特開2013-018256(参考抽出公報)
7位:登録実用-3119064(類似抽出公報) 8位:登録実用-3117841(類似抽出公報)

概念検索では、文章を入力するのではなく、具体的な特許公報の番号を入力して類似する特許公報をランキング表示することが可能な機能も備えているので、予備検索で把握した適合公報の番号から類似する特許を抽出することもできます。

 

【アプローチ④】

適合公報の引用、被引用関係の公報を「芋づる式」に引き出す。

特許は特許庁における審査が行われることから、引用文献が提示されたり、自身が引用されることがあります。引用したり、引用されるということは、関連性が高いから行われるのです。こうした、引用、被引用の情報をたどることで、簡単に関連性が高い可能性を有する公報にたどり着くことができます。

・調査主題に適合する公報を見つけたら、審査経過を確認して引用文献を確認する。
・被引用情報検索機能を有する検索システムであれば、被引用文献を確認する。
・適合公報が公表公報の場合は、サーチレポートの調査結果を確認する。
・適合公報の中で発明者が従来技術として提示している公報を確認する。

■検索例

適合公報である「特開2019-018551」の【発明の詳細な説明】には、「登録実用-3117841」が従来技術として記載されていた。

 

【芋づる式アプローチ】

引用、被引用の情報に限らず、いままで説明したプレサーチのアプローチそのものが、芋づる式アプローチになっています。新たな糸口から次々と関連情報を把握していくのです。

図8 芋づる式アプローチ

アプローチ①の検索により把握された特許分類を使って、アプローチ②の検索が行われています。次に、アプローチ②の検索により把握された新たな類義語を使って検索をすると、新たな関連する特許分類を見つけることができました。このように、得られた情報を糸口にして特許分類やキーワードを充実化させることができるのです。

 

【多観点、多種類の適合情報の把握】

予備検索のステップで、さらに注意すべき事項が、できるだけいろいろな種類の適合情報を把握するということです。図9で、「特許A1、A2、A3、A4」は文具として用いられるダブルクリップそのものですが、「特許B」のような建築施工現場で工具として利用するダブルクリップが存在します。さらに、「特許C」のように他の文具に付属するダブルクリップも存在します。

図9 適合情報の範囲

 

この「特許B」や「特許C」を適合情報とするのか否かということは、特許調査の目的や予算により決められますが、予備検索の段階で、「特許B」や「特許C」を把握できなかった場合の本検索の検索式は調査モレのリスクが高くなります。

実際に把握された「特許B」は図10の内容の特許です。

図10 工具として利用されるダブルクリップ

 

さらに、実際に把握された「特許C」は図11の内容の特許です。

図11 他の文具に付属するダブルクリップ

以上に説明した通り、予備検索のステップでは、できるだけ多観点、多種類の適合情報を、短時間のうちに把握し、本検索の検索式立案の参考にすることが重要です。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その4 多面的な検索式の策定」について解説していきます。