その5 調査精度を向上させる検索テクニック

モノづくり企業がオリジナル商品を手掛けるときに特許に対するケアは必須です。事業を安全に進めるためにも、研究技術開発を効果的に進めるためにも、特許調査を実施することは必ず必要となります。

特許サーチャーが特許調査実務の担当を始めて、各種番号指定検索、出願人指定検索、特許分類指定検索、キーワード検索など、各種の検索式を立案し、検索により得られた母集合のスクリーニングを実施する経験を積み重ねる中で、検索モレに対する不安と闘いながら、膨大なヒット件数となってしまった検索母集合の絞り込みに苦労されていると思います。

この講座では、特許検索の実施プロセスについて、工程ごとの注意点について解説するとともに、モレが無くノイズが少ない検索を実現するために必要な「多面的アプローチ」について解説していきます。

5.調査精度を向上させる検索テクニック

多面的な検索式の策定とともに、調査精度を向上させるための検索テクニックがいくつかあります。次は、それらの検索テクニックを具体的に紹介していきます。

(1) キーワードの類義語展開

特許調査の基本は関連する特許分類を特定し、特許分類指定検索を実施することですが、特許分類指定のみではヒット件数が膨大となり、キーワードを掛け合わせて絞り込むことは日常的に行われています。この「キーワード検索」を実施する際に大切なのが、「いかに指定するキーワードの類義語を展開できるか」ということです。具体的には、検索に用いる概念を表すキーワードが、予備検索で把握された関連公報の中で異なる表現がされているのを拾い上げたり、自分の頭で思い浮かべられる類義語を書き出したり、過去に使った類義語展開を引っ張り出してきて再利用するといったことが行われていると思います。

モレの無い「キーワード検索」を実現するうえで、最初に問題となるのが『表記ゆれ』の問題です。次に示す、a.~f.のような表記方法のバラつきは『表記ゆれ』と呼ばれます。この『表記ゆれ』は有料の特許検索データベースの場合には自動的にカバーされるようになっていることが多いので気にする必要は無いかもしれませんが、J-PlatPatのような無料のデータベースの場合には、カバーされていないことがあります。カバーされていなければ検索者自らが「カタカナ表記」「促音、長音」「全角、半角、大文字、小文字」の表記を展開して検索式に織り込む必要があります。

『表記ゆれ』に加えて厄介なのが『類義語(同義語、広義語、上位語、狭義語、下位語、関連語、連想語、反義語など)』の展開です。この類義語展開については、AIが発展した将来には検索システムにより自動的にカバーされるようになると思いますが、現時点では、自らが類義語キーワードの展開を行う必要があります。

この類義語の展開に役立つものが「シソーラス辞書」です。図13には、無料で使えるシソーラス辞書の「weblio」を紹介します。

図13 weblioの画面

この図13の例では「クリップ」と入力して検索すると、クリップのいろいろな類義語表記が得られています。ダブルクリップに関する特許調査を実施する場合には、ダブルクリップの類義語として、『Wクリップ』『ターンクリップ』『書類ばさみ』という類義語を把握することができました。

 

(2) 近接演算(近傍検索)の活用

特許公報の全文を対象に検索する「全文検索」が日常的に行われています。全文検索を実施すると、調査モレのリスクは少なくなりますが、逆に、不要なノイズを多く含んでしまいます。全文検索におけるノイズを少なくするテクニックの一つが「近接演算」(近傍検索とも呼ばれます)です。

例えば、「レバー操作」について記載されている特許公報を漏れなく検索しようとしたときに、「レバー操作」と5文字が連続するフレーズではなく、「レバー and 操作」のようにAND検索をすれば、「レバーを操作する」「レバーを指でつかんで操作する」と記載されているものもヒットさせることができます。一方で、「レバーを畳んでから表紙の色を操作窓から確認する」と記載されているものはノイズとしてヒットしてしまいます。
近接演算を活用すると、このようなノイズを除きながら、必要なものだけをヒットさせることが可能になります。

具体的に、J-PlatPatで近傍検索を実施するには、キーワード1が「レバー」でキーワード2を「操作」とし、近接度(キーワード1とキーワード2の間隔)が10文字以内で、語順指定なし(キーワード1、キーワード2の出現順序に関係なし)と指定して検索を実施します。その結果、近接度が指定範囲をオーバーするノイズを除外することに成功しています。

逆に、「プラスチックを摩擦熱で溶融接合するものを検索する」というテーマで近接演算を行った事例で、上手くいかなかった例を紹介します。

キーワード1が「摩擦」でキーワード2を「溶融」とし、近接度(キーワード1とキーワード2の間隔)が15文字以内で、語順指定あり(キーワード1の次にキーワード2が出現する)と指定して検索を実施すると、近接度が20文字で指定範囲をオーバーしていた適合公報が除外されていました。

特許の内容を説明する明細書においては、特許ならではの独特な言い回しが用いられています。その一つが「前記〇〇〇」といった「前記」という枕詞で、一度説明した部材名称が、その後に出現するときに「前に記した(前に説明した)」ということを表す「前記」という言葉が使われています。

したがって、近接度の文字数を設定する際には、この「前記」という枕詞が使われていることを想定して、少し多めに近接度を設定しないと必要な公報が漏れてしまうことがあります。

 

(3) 避けたいNOT検索

ノイズを除去するために不要なものを除外する「NOT検索(除く検索)」を行えば良いかと思いがちですが、使用することは、あまりお勧めできません。もしも、NOT検索を実施される際には「必要な特許公報までもが除かれないように」充分に注意して検索を実施してください。

具体的な事例を挙げて問題点を紹介します。以下の検索事例では、ダブルクリップに関する調査を実施する際に、ゼムクリップは関係ないため除きたいと考え、発明の主要部に「ゼムクリップ」のキーワードを含むものがNOT検索により取り除かれました。

このような検索を実施すると、「ゼムクリップのみに適用されるもの」については除去されても問題ありませんが、「ゼムクリップを例に説明したが、ダブルクリップにも適用可能なもの」も除外されてしまいます。NOT検索には適合公報であるにもかかわらず、ゼムクリップという記載があるために、必要な公報まで除外されてしまう危険性を含んでいます。NOT検索を実施する際には、こうした危険性に十分に注意して実施する必要があるため、あまりお勧めしたくない検索手法であります。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その6 陥りやすい検索式の失敗事例」について解説していきます。