その5 検索式の考え方と特許調査の基本手順

独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)より、無料で特許情報の検索ができる「J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)」が提供されています。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

1999年から「特許電子図書館(IPDL)」として始まった無料の特許データベースは、2015年には「J-PlatPat」として生まれ変わり、さらに、2019年5月には、大きく機能改善がなされて検索操作のインタフェースも大きく変更されました。

この講座では、特許調査の初歩の段階で行われる簡単な特許検索について、無料で手軽に使える「J-PlatPat」の実際の操作事例を紹介しながら解説していきます。

 

5.検索式の考え方と特許調査の基本手順

調べたいテーマに関連する特許を引っ張り出すための条件を指定するときに用いるのが「検索式」ですが、その「検索式」の成り立ちについて確認しておきたいと思います。具体的な例を示しながら説明した方がわかりやすいと思いますので、「調べたいテーマ」を以下のような特徴を有するクリップとしてみました。

図28に調べたいテーマである「レバー回動収納式ダブルクリップ」について説明しています。

図28 「調べたいテーマ」の説明

ここで、検索条件を文章にして表すと、

ダブルクリップ」であり、かつ、「レバー回動して邪魔にならない」構造になっており、「レバーを着脱して邪魔にならない」構造のものは除外する。

と表現できます。この文章の中で、検索のポイントとなるキーワードとしては「ダブルクリップ」「レバー」「回動」「着脱」の4つになると思いますが、この検索のポイントとなるキーワードのことを『検索に用いる概念』と呼んでいます。

そして、この検索に用いる概念をかけ合わせたり、並列で指定したり、除外するための条件設定するときに「演算子」が使われます。ブール演算子と呼ばれることもあり、表記形式としては「AND」「OR」「NOT」とか、「*または×」「+」「#または-」のように表されています。

(1)演算子とベン図について

検索に用いる2つの概念の関係性を指定するものが「演算子」ですが、図29では、各演算子が示す意味を模式図に表しました。

図29 各演算子の意味を示す模式図

「ダブルクリップ」は別の呼び方として「バインダークリップ」と呼ばれることがあるようです。そうしたことから、「ダブルクリップ」と「バインダークリップ」とは並列で指定する必要があるので、2つの概念を「OR」で繋げています。2つの概念が重なり合ったベン図において、ダブルクリップだけ、もしくは、バインダークリップだけの単独の部分でも、両方共が含まれる重なり合った部分でも、いずれの部分でもよいことを示しています。

今回の特許調査は「レバーが回動するもの」を対象にしていますので、「ダブルクリップ」のうち「レバー」に関するものに限定するために、「ダプルクリップ」と「レバー」の概念は「AND」で指定します。ダブルクリップとレバーの両方共が含まれる重なり合った部分のみを指定したことになります。

そして、レバーを邪魔にならなくするために「回動移動」するものは対象ですが、「着脱除去」するものは不要となれば、「回動」の概念を含む集合から、「着脱」の概念を含むものを除外するために、2つの概念を「NOT」で繋げます。回動移動の集合から、回動移動と着脱除去の重なりの部分を除いた部分を指定したことになります。

次に、今回の調べたいテーマである「レバー回動収納式ダブルクリップ」について、検索に用いる概念と、その各概念の関係性を図30のベン図に表しました。今回の例では「ダブルクリップ」「バインダークリップ」「レバー」「回動」「着脱」という、検索に用いる5つの概念について、その関係性と検索式で引っ張り出したい集合の部分を表しています。

図30 調査テーマを表したベン図

今回の検索では、赤色の線で囲った、略三角形の部分に該当する特許を引っ張り出すことにしました。「レバーを着脱して邪魔にならなくしたもの」(点線で囲った薄いグレーで色付けした集合)は除外することも検討はしましたが、「着脱」をNOTしてしまうと「回動収納でも、着脱収納でも、どちらでも良い」と表現されたものや、「回動収納した後にレバーを着脱するもの」が除かれてしまうため、「着脱をNOTすること」は行わないようにしました。この説明からもお分かりいただけるとおり、NOT検索(除く検索)では、本来は必要なものが除かれてしまう危険性を有していますので、NOT検索を使う場合には十分な注意が必要です。

 

(2)J-PlatPatでの検索例

図31には、図30のベン図の赤色の線で囲った略三角形の部分をJ-PlatPatを用いて実際に検索した画面を示しています。

1行目の「ダブルクリップ」の概念はFI分類で表現し、2行目の「レバー」概念を表すキーワードとして「レバー OR つまみ OR 摘み OR 取っ手 OR ハンドル」と指定し、3行目では「回動」の概念を表すキーワードとして「回動 OR 回転 OR 回す OR 回し」と指定しました。各行間の関係は「AND」条件で検索されます。

図31 J-PlatPatでの検索例

上記の検索式で原稿執筆時点のヒット件数は「35件」でありました。この35件をスクリーニングして、前出の図28の緑色枠で囲って例示したような「レバー回動収納式ダブルクリップ」に関する特許、実用新案を抽出します。

 

(3)特許調査の基本手順

今回の「特許検索講座 初級編」では、J-PlatPatに慣れ親しむことを目的に、J-PatPatの検索操作画面の説明から始めましたが、実施に特許調査を実施する際には、図32で示したような手順で検索式の立案と検索とスクリーニングを進めて行きます。

図32 特許調査を実施する手順

まずは、調査テーマを把握する工程では、どのような特許を引っ張り出すべきなのかを明確にします。次に、調査テーマを検索概念の組み合わせで表現するために、図30で示したようなベン図で表現します。特許調査業務に習熟してくると、このようなベン図を頭の中で思い浮かべながら検索戦略を検討できるようになりますが、慣れないうちは、実際にベン図を作成する練習をするとよいかと思います。検索方針が固まったら、予備検索を実施して、今回の調査テーマに関連する特許分類や、類義語、同義語のキーワードのバリエーションを確認して本検索の検索式に反映させます。本検索の検索式が確定したらヒットした回答集合をスクリーニングして、関連する特許、実用新案を抽出します。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その6 J-PlatPatを使った特許調査事例」について解説します。図32の手順に沿って調査を実施した事例を紹介します。

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