その1 類義語キーワード展開の難しさ

検索式立案プロセスを学んだ後には、できるだけ数多くの案件に取り組み、学んだ手法を自分のものにしていく必要がありますが、同時に、それぞれの案件に取り組むことで得られた新たな知見を蓄積していくことも重要です。
特に、「こんなことをすると調査モレが起こる」とか、「こうすると調査モレを防げる」とか、「こんな工夫をすれば効率的に欲しい特許を検索できる」といったノウハウを多く知ることで、特許調査の精度をさらに高めることができます。

この講座では、検索実務や検索事例研究活動により得られたいろいろなノウハウについて解説するとともに、効果的な学びの機会となる検索事例研究の活動の進め方を紹介します。

1.類義語キーワード展開の難しさ

特許調査の基本は関連する特許分類を特定し、特許分類指定検索を実施することですが、特許分類指定のみではヒット件数が膨大となり、キーワードを掛け合わせて絞り込むことは日常的に行われています。
例えば、発明の名称が「ゴルフクラブ」と表現されていても、もしくは、ゴルフクラブの種類の1つである「パタークラブ」と表現されていても、どちらも『ゴルフクラブの特許分類』が付与されているので、特許分類指定検索を実施した場合はどちらもヒットします。しかし、キーワード指定検索で「ゴルフクラブ」と検索すると、「パタークラブ」としか記載されていない特許公報はヒットしません。
したがって、キーワード検索を実施する際には、指定するキーワードに関連する類義語をOR検索にて展開しないと調査モレが発生してしまいます。

ここでは、類義語キーワード展開の難しさを実感した例を紹介しながら、キーワード指定検索の注意点を説明します。

1つ目の事例は「パタークラブの事例」です。

パターヘッドの上面に打球の方向を示す直線を設けるとともに、直線の方向を可変できるようにしたパタークラブの出願を題材公報(対比表の左側)とした場合に、題材公報に対する拒絶理由通知書の中で引用文献(対比表の右側)が提示されました。この題材公報と引用文献との対比表を図1に示しました。

図1 パタークラブのキーワード展開事例

この発明品のパタークラブのヘッドには、打球の方向またはスイングの『方向を示す線』が付けられており、その『線の方向を変更できる』ようになっています。『方向を示す線』のことを、題材公報では「直線指標」と表現されていますが、引用文献では「指針」と表現されていました。「直線指標」というキーワードは、なんとか類義語展開ができそうですが、「指針」というキーワードを類義語として想起できる人は少ないのではないでしょうか。しかし、キーワード検索を実施するときに、「指針」というキーワードを類義語として指定できないと引用文献はヒットしません。

さらに、『線の方向が可変である』ことについては、題材公報では「角度は調整可能」と表現されているのに対し、引用文献では「方向が調整可能」とか「角度補正する」といった表現になっています。「可変」というキーワードに加えて「調整可能」とか「補正する」といったキーワードを類義語として展開できなければ、題材公報も引用文献もヒットさせることはできません。

次に、2つめの事例についても確認してみましょう。図2には、「レンガタイルの事例」について、題材公報と引用文献との対比表を作成しました。

図2 レンガタイルのキーワード展開事例

この事例では、2枚のタイルの裏面同士を抱き合わせた形態で押出成形された後に、中央部分で左右に割って分割されますが、そうすると、タイルの裏側には長手方向に連続する繋ぎ部には「バリ」が発生します。題材公報では「バリ」と表現されていますが、引用文献では「バリ」というキーワードは使われず、「バリ」のことを「凸部」とか「突部」と表現されていました。射出成形や押出成形などの成形を行う際に発生する「バリ」については、一般用語としても、技術用語としても、誰もが普通に使用するキーワードであると思いますが、引用文献のように「バリ」というキーワードが使われていないケースが存在するのです。

3つめは、「豆類の研磨装置」の事例です。図3には、題材公報と2つの引用文献との対比表を作成しました。

図3 豆類の研磨装置のキーワード展開事例

この発明品の研磨装置には豆類を撹拌するための「撹拌翼」を有しています。題材公報では「撹拌翼」と表現されている部材について、引用文献1では「スクリュー」と記載され、引用文献2では「オーガ」と表現されています。
つまり、題材公報の先行技術調査を実施する際に、「撹拌翼」を有する研磨装置を調べる際に、「オーガ」と指定しなければ引用文献2をヒットさせることはできないのです。撹拌翼の類義語として「スクリュー」とキーワード指定することはできそうな気がしますが、「オーガ」とキーワード指定できる人は多くないように思います。

この3つの事例を見ると、キーワード検索は検索モレを起こす、危険な検索であると考えてしまいそうですが、膨大な件数の特許情報を対象に検索を行うためには、避けることができない検索手法でもあります。そのために、キーワード検索を実施する際には、指定するキーワードの類義語を適切に展開する必要があるのです。

ひとことで「類義語」といっても、同義語、広義語、上位語、狭義語、下位語、関連語、連想語、反義語といった、それぞれの観点に着目して展開する必要があります。また、特許の明細書の中で表現される部材名称(方向を示す線)については、機能的表現(ガイド指標)、構造的表現(直線指標)、カタカナ表現(ガイドライン)、業界専門用語(スイング軌道線)のように異なるキーワード表現がなされます。自分が持つ技術知識に加えて、シソーラス辞書を活用し、さらに、予備検索で把握した適合公報でのキーワード表現を確認して拾い上げながら類義語を展開する必要があります。

ただし、やみくもに類義語を展開するとノイズを増やす要因になってしまうので、検索したい概念を表す適切な類義語を選定する必要があります。なお、調査モレを極力減らしたい、クリアランス調査の場合には、可能な限りキーワードで絞り込む検索式の採用は見送りたいところです。

今回の特許検索講座の解説は以上です。次回は「その2 特許分類の見方、探し方のコツ」について解説していきます。